アンニュイな彼
『ふたりのときは、その呼び方は禁止』


あ……。
あのときは、ふたりきりの時間なんて金輪際訪れることはないと思ってた。


「あ、ええと、私、呼び方を変えた方がいいですか? できたら私も……その、名前で」


さっきsugar gardenで不意打ちで呼んでくれたみたいに、〝愛〟って呼んで欲しいなぁ。

そう思って、両手を目の前でぱちんと合わせると、先生は億劫そうに息を吐いた。


「愛。」
「えっ! あの……っ、ハイ!」
「よし。じゃあ今度は、こっちネ」


自分の膝をポンと叩いて、先生は私を見上げる。

え……なんですかその、一回呼んだから満足だろ的な、お座なりな感じは!


「そ、そこに、座るんですか?」


先生は黙って頷く。
対して私は宙を見上げ、焦って目を泳がる。
着崩された洋服をいそいそと直しながら、深呼吸をした。


「あのっ、もう少しその、お手柔らかにお願いしますっ。オトナのキスとかその、初めて、なので……」


両手を揉んで、もじもじと発した私の真下で、頭を抱えるような仕草をした先生は盛大な溜め息を吐いた。
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