アンニュイな彼

「せっかく再会できたんだし、このまま終わるのは勿体ないじゃん？」



カウンターに頬杖をついた真菜は、盛大に焦ってる私を見て笑顔のまま、ウインクみたいに片目を細めた。

確かに、真菜の言う通り。
私だって、このままこれっきり、来てくれるかわからない先生を待ち続けるのは残念だって思ったもの。

もう一度、先生に会いたい……。
せっかく再会できたこの偶然のチャンスを、無駄にしたくない！


「あ、この恋愛映画、観てみたいんだよね〜。キャストがいいわぁ」


再び雑誌を捲った真菜は、新作映画の紹介ページで手を止める。

私はというと、もう一度先生に会えるかもしれないと思ったらまたドキドキうるさくなってきた胸に拳をあてる。

どんな恋愛映画を観たって、所詮はフィクション。
今の私の胸の高鳴りを超えるドキドキは抱けない。

そう確信した私に、キッチンで洗い物を始めた智兄が、「行くのか？」と低い声で呟いた。