りせい君の理性が危うい瞬間




*



家に帰っても、利生君という名の存在が私の感情を鈍く興奮させる。



ドックン...ドックン...


あの男は悪そのものだ。


だってこんなにも、私の頭と心を支配しているじゃないか。



「...っ」




頭を抱えて、玄関のドアにもたれかかりながら声を押し殺して泣いた。



"生きてて楽しいの?"


私の心の中を素手でグチャグチャと掻き回すような利生君の言葉を、ふと思い出した。



生きてて楽しいってなんだろう。

平凡だった、なにもかもが。
苦しいなんて感情はその時はなかった。


だけどある日、すべてが壊れた。


それがとれだけ辛いことか...幸せを知り尽くしてるあの男には、一生私の気持ちなんか理解出来ないと思う。



ーーーでも、ここで立ち止まっていてもしょうがない。



お父さんが死んで、お母さんと2人になって
苦しくてもそれでも生きているんだ。




利生君の存在に惑わされてはいけない。



涙で濡れた制服に手のひらにこもった熱をやる。


手を制服に押し付けたところで、濡れた部分が乾くわけ...ないんだけど。



泣き跡を少しでも消してしまいたかったんだ。



涙が出てくるなら、拭いて泣いた事なんか忘れてしまえばいい。



ねえ...そうでしょ?お父さん。



私...けっこう強いんだよ。




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