りせい君の理性が危うい瞬間
「やっほー、昨日ぶり。」
私の目の前でヒラヒラと手を横に振る利生くん。
その指先が、目に当たってしまいそうなほど距離が近い。
ジトー...っと彼を見つめたまま無視をすると。
「光崎羽子(こうさき・わこ)って名前なんだね、あんた。
...悪いけど、色々調べさせてもらったよ。 もちろんお母さんが昨日倒れたこともね」
「ーーーッ!?」
身内にだって教えていない情報を、なんでこの男が知っているのか。
病院の誰かがこの男に情報を漏らしたに違いない。
...むかつく。 なんでも利生君の思うがままじゃんか。
「...弱みでも握ったつもり?それとも私の事からかってるの?」
「うーん、そうじゃないけど、そうかも?
よくわかんないんだよね。あんたの弱ってるところが見たいだけかも」
「...性格悪すぎ」
「あはっ、はじめて言われた。
まあそんな事はどうでもいいからさ... 」
心臓の音が、ワンテンポずれたような気がした。
だっていきなり利生の手が私の腕を掴んで、グルリと私の世界が一回転するんだもん。
他の生徒が注目している中で、利生君は視線なんかお構い無しに私を担いで教室から出る。
一瞬...気を失っていたけど、我に返った時にはもう遅い。
連れてこられた場所は、最近掃除されたばかりのプールだった。