りせい君の理性が危うい瞬間
不幸の連続、それが苦しくて、分かち合えない痛みに自分自身の価値が薄れてしまうような気がして。
プールから出る気力もなく、ただ黙ってその場で俯いていると。
ヒラヒラと、上から降ってきた紙が私の周りに集まる。
呆気にとられ、言葉が出てこない。
だってこれって...喉から手が出るほど欲しいと思ってたお金なんだもん。
それを粗末に扱う人物は、もちろん1人しかいなかった。
「欲しいものは特別に見えて仕方ないらしい...人間ってそういう生き物でしょ?」
プールに札束をばらまいた利生君が、いきなり語り始める。
「あんたにとって、お金って特別なもの?だから欲しくなるの?」
「...生きていくためには必要でしょ?お金って。
それを特別って呼んじゃいけないの?」
「いや?いいと思うよ。だけど少し、妬けるな...」
「へっ?」
ーーードボンっと、水滴が飛び交って、私の視界にキラキラとした光を見せる。
濡れるのなんかお構い無しにプールに入ってきた利生君が、私の目の前に立ちーーーそして。
「欲しいものは特別に見えて仕方がないのなら...俺にとっての特別は、あんただ」
そう言って、ヘラりと笑って、ドクン...っと。私の胸の奥を強く押した。