りせい君の理性が危うい瞬間
利生君は約束通り、お母さんを大きな病院へと移してくれた。
設備も先生もすべてが完璧な病院の個室で、酸素マスクをつけたまま眠ってるお母さんの手を握る。
ーーーガチャ。
「羽子、そろそろ“家“に戻ろうか」
ノックもしないで入ってくる利生君。
私はこくりと頷いて、握っていたお母さんの手から離れた。
「意識が戻るか戻らないかは、羽子のお母さん次第だよ。 本人に目覚める意思がなかったら、ずっと暗闇で彷徨(さまよ)ったままだ」
病院から出て、すぐ近くに停車していた黒塗りの高級車に乗せられ。
車が走り出した瞬間、利生君は意地悪なことを口にした。
「分かってるよ...っ、そんなこと」
意地悪だけど...利生君の言ってることは当たってる。
当たってるから、余計ムカついてくるんだ。