りせい君の理性が危うい瞬間
「羽子」
利生君は色んな声色で、私の名前を呼んでくる。
私の名前がそんなに好きかと聞きたくなるくらい、何度も何度もその体内から吐き出される、聞き慣れた私自身。
嫌気がさして何度呼ばれても無視をした。
多分それが利生君の怒りに触れたんだと思う。
「契約したはずなのに、どうして俺の言うことが聞けないの?羽子」
隣にいる利生君が、グッと横に体を捻って、私の目を見つめる。
「呼んだら“はい“。だろ?...返事も出来ないなんて、なんの為に存在してるか分からないよ、その目も口も、羽子自身も...ね?」
広い車の中でドサッ...といきなり押し倒された。
そしてそのまま、利生君に視界も唇も...心だって奪われ。
終いには、彼の手のひらで迷子になってしまいそうな。
逃げても逃げても追いかけられて、多分いつだって。余裕があるのは利生君の方。
「んっ...りせ、はな...っ!」
“離れて“と言おうとしたけど...激しいキスの中で、その言葉は溶けていく。
やだよ...愛なんてないくせに。
じゃあなんでキスするの。
キスって...お互いの心が繋がってないと、しちゃいけないんだよ?
「羽子、バックミラーの方を見て。」
利生君にそう言われ、ボーッとしたまま車のバックミラーに目をやると。
ーーバチッと。運転手さんと目が合った。
利生君とのキス。全部見られていたんだ。
やだ、どうしよう...恥ずかしい。