りせい君の理性が危うい瞬間






「ダメだよ羽子。この屋敷で俺以外の人と喋っちゃ」


「えっ?なんで。別にお礼言うくらい...」


「ダメったらダメ。羽子のその綺麗な目も口も、そして耳も。俺だけを見ていてほしいから。
...なんだったら学校の奴らとも話さないでほしいくらいだよ。 そしたら羽子の世界には俺だけだね、幸せだ」



ナイフが線を引いて、肉が切れたとき。

溢れ出す肉汁が、妙に不気味に見えたのはきっと。

利生君の独占欲がこの三日間で強くなったからなのかもしれない。



「生きていくには、絶対に人と関わらなきゃ生きていけないから。話すなって方が無理があるよ」


「ふーん、じゃあ死ぬ?俺と」


「...えっ?」


「冗談に決まってるじゃん。なに珍しくマヌケな表情晒してるの? てかさっさと食べなきゃ遅刻するよ」



しらっとした顔で言う利生君はどこまでが本気か、分からない。


続かない会話を、口に食べ物を入れて誤魔化した。


そして食事が終わって学校の支度をし、高級車で学校に向かう。



数分で着いた学校。

校門前のすぐ近くで降ろされて、変に集まる視線に冷や汗が止まらない。


学校の人気者利生君は、相変わらず注目の的だから、正直学校では他人のフリをしていたいのに。



「羽子のクラスまで送ってあげる」


「別にいいよそんなの...!利生君と一緒に居ると目立ってヤダもん」


「うるさいよ羽子。 俺の言うことを拒否ることは許されないし、もし羽子になにかあったらどうする気?」



学校内で、しかも教室に向かう間に特別なにか起きるわけでもないのに。


利生君はいつだって大げさだ。



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