りせい君の理性が危うい瞬間
「ねえ、利生君が女連れて学校来たってマジ?」
「えっ彼女かなー?最悪...」
朝なのに薄暗い廊下で、コソコソとわざとらしく私の方を見て噂をする女生徒。
彼女でもなんでもない、のに。
撤回(てっかい)する暇さえ与えてくれない利生君は、余計に誤解を招くよう手を繋いできた。
「お昼は俺と過ごすこと。 帰りもちゃんと迎えに来るから...逃げちゃダメだからね」
そう言って、教室のドアの前で私の手の甲に“ちゅっ“とキスをする利生君。
どこまでも悪魔な彼は、皆が見ていることなんかお構い無し。
くるりと自分の教室の方に足を進める利生君の背中を呆然と見送って、教室に入ると。
「朝から幸せ見せつけるとかキモすぎ」
「どうやって“あの“利生君を誘惑したんだろうね?
利生君いい人だから光崎さんに弱み握られちゃって仕方なく構ってあげてるだけじゃないのー?」
ぐるりと巻かれた髪に、バッサバサのまつ毛。
スカートの中から見えてしまいそうな下着なんかお構い無しに、行儀悪く机の上に座って、朝から下品な文句を私にぶつけてきたギャル2人組。
最悪だ。 クラスのボス的存在の2人を敵に回してしまった。
...そういえばこの2人、よく利生君のこと『カッコイイ』って騒いでたもんね。
でもどうしようもないじゃないか。
私は利生君のモノだけど、利生君は私のモノじゃない。
だから私と利生君に愛なんて存在しないんだから、それだけは分かってほしい。
ーー分かって...ほしいのに。