りせい君の理性が危うい瞬間
「こんな扉、意地でも壊して俺との約束を守ろうとは思わなかったわけ?」
「...っ!そんなの出来るわけーー」
「ない。なんて言わせないよ羽子。
あんたは俺に買われたんだ。 飼い主のところに戻って来れないペットなんて...いらない」
使われていない埃(ほこり)かぶった体操マットの上に、力なくしてゆっくり尻もちをつくと。
利生君は持っていたオシャレな水筒の蓋(ふた)を開け。
次の瞬間
バシャッと勢いよく、中身を私に向かって捨てた。
ポタポタと髪の毛から水滴が静かに落ち、制服は絵の具を無差別に塗りつぶしたみたいに、綺麗な紫色に染まっていく。
「なに...これ」
「ぶどうジュースだよ。 羽子好きでしょ?フルーツ。
だからせっかく朝から準備したのに 」
「そこまで好きじゃない」
ハッキリそう言うと、利生君は驚いた顔で眉をピクリと動かせた
「はあ?...おかしいな。 羽子いっぱいフルーツ買って病院行ったじゃん」
「あ、あれはお母さんがもし目覚めてたら食べさせてあげようって!...寂しい気持ちを紛らわすためだけに買ったお見舞い用のフルーツだもん」