【短】届かない声は距離のせい


「晴香」



 呼ばれて驚いた。



 ――――呼び捨てで呼んでくれた。



 そう呼ばれることにも慣れていないことが悲しい。
 名前を呼ばれたことがあまりに嬉しくて涙を流していた。


 近づいてきたお陰で、その顔がはっきりと見える。
 小さな目が見開かれ、戸惑っていた。



「……ごめん」



 光哉が何に謝ったのかわからない。ただ、優しく頭を撫でてくれた。



「わたし……光哉のこと、好きだから、だから……。一緒にいたくて。でも、見えてるのに、届かないのは辛いよ」



 言葉が涙で途切れて、何を言っているのかが自分でもわからない。
 ちゃんと伝わっているのかな。

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