【短】届かない声は距離のせい
光哉から就職したいと聞いた時も、びっくりしたが深く追求しなかった。
自分で選んだ道だからと応援することにした。今更だけど、何も聞き返さなかったことを後悔する。
「あの日、兄貴と言い争いになったんだ。それを晴香の友達に見られたわけだけど……初めて兄貴に殴られたよ。大学に行って好きな勉強して、好きに遊んで、たくさん友達作って人生の土台をしっかり作れってさ」
わたしは驚いて手を離す。
知らなかったことが信じられない。
なぜ言ってくれなかったのかと言いかけてやめた。
他人が踏み込んでいいことではない。