【短】届かない声は距離のせい

 光哉から就職したいと聞いた時も、びっくりしたが深く追求しなかった。
 自分で選んだ道だからと応援することにした。今更だけど、何も聞き返さなかったことを後悔する。



「あの日、兄貴と言い争いになったんだ。それを晴香の友達に見られたわけだけど……初めて兄貴に殴られたよ。大学に行って好きな勉強して、好きに遊んで、たくさん友達作って人生の土台をしっかり作れってさ」



 わたしは驚いて手を離す。


 知らなかったことが信じられない。
 なぜ言ってくれなかったのかと言いかけてやめた。
 他人が踏み込んでいいことではない。
< 22 / 27 >

この作品をシェア

pagetop