【短】届かない声は距離のせい
「……おはよう」
「お、おはよう」
待ち合わせ場所にいた彼、光哉《みつや》は少しだけ穏やかな顔をする。
全体的に短く整った黒髪。日に焼けた肌は応援部に所属しているから。誰が見ても男らしくて恰好いい。
特に夏。わたしは様々な大会でその姿を目にしてきた。
「行こうか」
「……うん」
光哉はすぐに前を向いて歩き出す。わたしは慌てて着いていく。
朝の光は強くて迷いがない。まるで彼のようだとわたしは思う。
その光は優しかったり、厳しかったり、弱く強く。惑わず真っ直ぐに見つめる光哉の瞳を思い出す。
その瞳を信じていた。その言葉に涙するほど嬉しかったはずなのに。