天国への橋
親父が死んだ。


最低な親父だった。




十二年前、母さんと俺を捨てて、出て行った親父だ。


泣き叫ぶ俺に背を向けて……。






俺はまだ、五歳の子供だった。


ただただ、振り向かない親父の大きな背を見つめ、無性に悲しかった事だけを覚えている。







親父には、女がいたらしい。


その女とも二年で別れ、その後十年程、タクシードライバーをしていたそうだ。




そして、事故に遭った。










十二年ぶりに帰って来た親父は、何も語らない。



身体だけ。




ただ、眠っている様に見えるだけだ。






けれど、俺にとってはどうでもいい。


生きていようが、死んでいようが。





二度と会う事は無いと思っていたし、会う気も無かったんだから。






女ができて家族を捨てた、最低な親父なんかには。







俺には父親なんていないんだ。


俺には、母さんだけ。



母さんだけが、俺の家族。





昼も夜も働いて、俺を育ててくれたんだ。







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