たまゆらなる僕らの想いを
自転車を停めて、店の前に立って、そこで気づいたのは、お店の中に入るのが初めてだということ。
いつもはたまたまヒロがお店の前でお仕事をしている時に会っていたから、その必要がないままだった。
私は少し緊張しながら自動ドアを開ける。
来客を知らせる軽やかなチャイムが鳴ると、店内の奥から「いらっしゃいませ」という若い女性の柔らかい声が聞こえた。
どうやらレジにいる女性のようで、今はお客さんのお会計をしている。
ヒロがいたら日本酒の写真を見せて探すのを手伝ってもらおうかと思っていたのだけど、お店には不在のようだ。
私はとりあえず日本酒が並ぶコーナーを探すことに。
鮮やかな木目の棚には、新商品のお酒がディスプレイされている。
【辛口】と書かれているけれど、まだお酒の飲めない私には、お酒が辛いという意味がよくわからずに頭を傾けた。
ピリッとする唐辛子とかと同じ類の辛さなのか。
いつか飲める年齢になった時、確かめてみようかななんて考えて、そうだ日本酒のコーナーを探さなければと視線を上げた時だった。
「何かお探しですか?」
先ほどの店員さんの声が聞こえて、心臓がひとつ大きく跳ねる。