たまゆらなる僕らの想いを
頭上には夜空に煌々と浮かぶ満月。
足元には散った花びらたちが絨毯のように敷き詰められていて、一帯を囲むように薄紅色に染まる桜の木が立ち並んでいる。
そうか。この手に乗る花びらは桜だったのかと改めて手のひらの花びらに視線を落とすと。
『凛』
また、名前を呼ぶ声が聞こえて。
私は視線をツ、と持ち上げる。
今度は、見つけることができた。
名を呼んだであろうその人は、私から十メートルほど離れたところに立っている。
でも、花々が淡く発光しているせいか、相手の顔をしっかりと確認することができない。
それでも、相手が自分とは違う男性であることはその体つきから見てとれた。
知っている人だろうか。
でも、私の周りには、私を名前で呼ぶ人は母と、中学からの唯一の友人である八木原 朋美(やぎはら ともみ)だけだ。
とはいえ、ここが現実とは思えず、夢であれば私が生み出した人物なのかもしれないと考えて。
「……誰、ですか?」
とりあえず、声をかけてみた。
元々、私は人付き合いが得意な方ではない。
ここが夢の世界であるならば、せめて明るい声を出してみたいところだが、夢の世界でも私は私らしい。
遠慮がちに発した小さな声は、相手に届いていなかったのか、返事はなかった。
彼は身動ぎひとつせず、こちらを見続けている。