たまゆらなる僕らの想いを


逃げ出すつもりはない。

でも、緊張で心臓が口から飛び出そう。

とにかくまずは、この前言い過ぎたことを謝って、島に住みたいという話はお母さんのいう通り、一度帰ってから話し合わせてと伝える。

それから──。


『……はい』


頭の中で話す順番を復習しているうちに、受話器の向こうから母の冷えた声が聞こえて。

暴れている心臓が強く掴まれたように呼吸が止まる。


「あ、の」


こくりと喉を鳴らしてから出した声は、掠れて弱々しい。


「帰りの、日を、ずらしたくて」


意図せずいきなり本題を口にしてしまい、私はハッとした。


『早く帰ってくるっていうこと?』

「違うの、ごめんなさい。お母さん、まずは、えっと」


順番を間違え、パニックなった私はしどろもどろに声を発する。

スマホ越しに母の溜め息が聞こえて、気持ちが落ちそうになったところで思い出した。

ヒロがくれたアドバイスを。

どう言えばいいのかわからないなら、最初に伝えて話せばいい。

相手がせっかちじゃなきゃ、待ってくれるだろ。

そう、言ってくれたのを。

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