たまゆらなる僕らの想いを
何度目かのコール音のあと、聞こえてきた母の声は少し小さく潜められていた。
まだ仕事中だったようで、またかけ直すことを伝えたけれど、大丈夫だから用件はと尋ねられて。
「あのね、やっぱり明日、帰ることにしたから」
先程変更してもらったばかりのフェリーのチケットを手にしながら伝える。
あのあと、ナギはまた力尽きるように消えてしまった。
様子を見に行ってくると病院に向かったヒロからは、やっぱりナギの容態が悪くなっていてウロウロできる力もなかったのだろうと電話で聞かされて。
グズグズしてはいられないと、雪が降り始める中私は港へ急行し、フェリーの予約を変更してもらった。
飛行機もさっき電話で空きを探してもらい、どうにか帰れる目処がたったところだ。
『渚君の意識は?』
オフィスから離れたのか、母の声がいつものトーンに戻る。
「まだ戻ってないの。でも、私は私のすべきことを頑張るって決めたんだ」
コロコロと予定変更ばかりしてごめんなさい。
謝ると、母は『それは気にしないでいいわよ』と言ってくれた。
その上。
『時間は? 荷物多いだろうし、迎えに行けそうなら行くわ』
気まで使ってくれて、私は一応時間を伝えつつも、仕事もあるだろうし無理はしないでとお願いした。
互いを気遣うようなぎこちない間は存在するけれど、それでも今は満足で。
よくなっていく状況に、通話を終えた私は勾玉を優しく包むように握りしめる。
このままいい流れになるようにと。
ナギの命をしっかりと繋いで、早く目覚めるようにと。
祈って、私は女将さんに帰ることを伝えに部屋を出たのだった。