たまゆらなる僕らの想いを

【エピローグ】



信号が赤から青に変わると、横断歩道を一斉に人が渡り始める。

海中で群れをなし優雅に泳ぐ魚のように、駅に向かって。

あるいは、それぞれの目的地を目指して。

私もその中に紛れ、白い息を吐きながら家路を急ぐ。


「苺のショートケーキはいかがですかー?」


今夜はクリスマスイブ。

街は今年も煌びやかに飾られ賑わっていて、行き交う人達の表情もどこか明るい。

見上げた夜空に瞬いているはずの星々は、煌々とした街明かりが姿を隠してしまってよく見えない。

イルミネーションも綺麗だけど、やっぱり星空が見たいなと、私はまた白い吐息を冬の空気に溶かした。

予渼ノ島から帰ってきて、もうすぐ一年。

受験シーズン真っ只中の私は、バイトの出勤日数を減らして代わりに図書館に通っている。

高校を卒業したら島に引っ越してみなか屋で働きたい。

強くあったその気持ちは変わることなく胸にあるけれど、みなか屋でお世話になるなら役立つ資格を持つべきだとの母の勧めで、私は調理師を目指すことにした。

専門学校に一年通い、調理師の資格を得てからみなか屋で働く。

夏に一度、女将さんが結婚式に出席するとかで東京まで出てきたことがあり、その時に母を交えて会い、その話もしてある。

< 257 / 262 >

この作品をシェア

pagetop