たまゆらなる僕らの想いを


勉強とか忙しくて日付の感覚が麻痺してるんだろうかと心配になった時──。

視界の隅に灰色の塊が入り込み、私はそちらを注視する。

以前は気づかなかったけれど、桜の木の下にしめ縄が巻かれた大き目の石がひとつあった。

石、というより岩に近い大きさかもしれない。


「ナギ、あの石、何を祀ってるの?」


指差して質問すると、ナギは体を起こして胡座をかき、私の指の先を辿る。


「ああ、あれか。ここは、【御霊還りの社】って呼ばれていて、死んだ魂が黄泉の国へと還る為の入り口があるとされる場所なんだ」

「みたま、がえりのやしろ」


ナギの言葉をゆっくりと繰り返すと、彼は小さく頷いた。


「それと、もうひとつ。人の娘に恋した神さまが娘の魂と共に天に還ったって言い伝えがある場所でもあるんだ」


黄泉の国への道と言われると少し恐ろしいけれど、後者のロマンチックな伝説については少し興味が湧く。


「島の人は神聖な場所だからって近寄らない……というより、ちゃんとした道もないし危ないから立ち入り禁止になってるんだけど」


じゃあ、ナギはなんでいるのかと聞こうとしてやめた。

よく考えたら私もここにこうして足を運んでいるのだから。

最初は偶然だったけれど、今はナギに会えるかもと思って自ら訪れている。

ナギはどうしてと聞いて、凛はなんでと聞き返されたら。

間違いなく、さっき使い果たした勇気を再び集めなければならない展開になりそうだ。


< 77 / 262 >

この作品をシェア

pagetop