たまゆらなる僕らの想いを
私は日々、母に喜んでもらおうと必死だった。
おかげで、家事全般はひと通りこなせるようになったけど、その代わり……。
『帰ってたなら、お風呂のお湯くらい張っておいてよ』
と、最近はやってないと叱られるようなってしまった。
彼氏と喧嘩したらしき日は特に。
……でも、母には感謝している。
父が死んでからずっと、私を見捨てずに養って育ててくれているのだから。
そう、感謝している、けれど。
私は一年ほど前のある日、聞いてしまった。
夜中、なんとなく喉が渇いて目を覚ました時、隣の部屋から母が彼氏と電話で会話している声がして。
母は、確かに口にした。
『え? 凛のこと? ……ああ、全然ダメ。あの子もう全然使えないし、正直いらないわ』
いらない。
母は、私がいらない。
それは呼吸がうまくできなくなるほどに心を刺した言葉。
笑っていたから冗談なのかもしれないとも思った。
でも、本心だとしたら。
怖くて尋ねたことはないし、母も私が聞いていたことは気付いてない。
だから普通に接しているけど。
あの日から、私の心には大きくて深い傷がついた。
それは今でも瘡蓋になって、ずっと張り付いて癒えないまま。