『好き』って。
1 失恋

「話って何?日向」

 体育館前に呼び出された。

面と向かって話したい、なんて珍しい。でも、そんな日向も可愛いし、好き。

「あのさ、俺らの事なんだけど」

何を話してくれるのかな。やっぱ高校卒業したら結婚しよう、とか?いやいや、それは早すぎか。じゃあ、

「俺たち、別れよう」

 その時、あたしの思考回路は停止した。

「え?いや、何言ってんの?まだ1年しか付き合ってないんだよ?」

 動揺、動揺。

「もう1年も付き合っただろ」

「そういうことじゃなくて!…その、な、なんで?」

「なんでって」

「…なんで別れるなんて言うの?あたし何かした?」

 必死に日向を食い止める。

何かしたかな。浮気だってしたこと無いし、日向にも浮気の影は無かったのに。
いつも二人でいると楽しくて、笑って、幸せだったのに。

「…笑美は何にもしてないよ。俺も浮気だってしたことない」

「じゃあ、なんで、」

「ただ………重いんだよ」

「重いって?…あ、あたしの体重がか!」

 何とか場を和ませようと、話を逸らそうとする。
 きっといつもなら日向が『確かになあ〜』って言ってくれる。いつもなら…

「茶化すなよ」

「日向…そんなあたしのこと嫌いになったの?」

「そうじゃねえけど…でも、俺の『好き』とお前の『好き』って、なんか違うんだよな」

「違うって何…?」

「なんつーか、俺は普通に好きなんだけど、お前はなんか…」

「なんか…何」

 日向が深呼吸をする。

「なんか何?!」

「ストーカーみてーなんだよ!!」

「え…」

「いつも俺のあとついてきて、そりゃ最初は可愛いなーなんて思ってたけどよ、でも、最近お前がストーカーに見えてきて仕方ねぇんだよ。」

「ストーカーって…」

「しかも俺のクラスの奴に俺が授業中どうしてた、とか聞いてるらしいじゃん」

「それは、日向と離れ離れが嫌だから、」

「それって、要するに俺を監視してるようなもんだろ?」

「監視って…そんなんじゃないよ…!ほんとにあたしは日向のことが知りたくて…」

「それがストーカーじみてるんだよ」

日向がそんなこと思ってるだなんて知らなかった。あたしが当たり前のようにやってた事が、日向にはすごく気味悪いことだったなんて。

「ごめん。そんなこと思ってたなんて知らなかったの。あたし、ちゃんと治すから。あんまりくっつかないようにするし、日向のクラスの人に日向のこと聞いたりなんてしないから。あたしの知ってる日向だけを好きでいるから…だから、別れるなんて言わないでよ…」

「…その志を、次の男で頑張れよ」

「やだ、やだよ!」

「じゃあな」

 日向は、あたしをおいて去っていった。

初夏、熱い涙が頬を伝った。




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