熟恋ージュクコイー
駅まではなんとなく無言で歩いた。

タクシーに乗り込み、行き先を告げる。

手は繋がったまま。

『田中さん、今日はありがとうございました。本当に楽しく、美味しく、幸せな時間でした。』

「こちらこそありがとうございました。ところで真野さん…」

『はい?』

と言って話を聞こうと耳を近づけた私に、

「さくらさん、おやすみ」

田中さんがささやいた。

耳に息がかかるくらいの距離に、恥ずかしくて田中さんの目を見れなくなった。

顔が真っ赤になっているだろう。

いや、絶対赤い。

良かった、暗い車中で。

恥ずかしさを堪えて、ちらっと田中さんを見上げると、こちらを見てあの柔らかい笑顔を見せた。

これは…マズい。

そうこうしている間に、うちに着いた。
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