熟恋ージュクコイー
お腹も空いていたので、食べ物も色々と頼んだ。

煮込みは好きか聞いてみると、好きだと答えた。

メモしなくちゃな。煮込み、好き。と。

豆腐のサラダも頼んでいた。

俺も頼みたかったんだよ〜!

こういう偶然の一致が、嬉しくて、いちいちジャンプしたくなる。

本当に子供に戻ってしまったみたいだ。

運ばれてきたビールも、とても美味しそうに飲む。

飲み干す勢いだ。

この飾らない飲みっぷり。

いいなぁ。

昔は女性らしい飲み方、とか、女性だからこうしてほしい、とか。

女性とは、という事にこだわりすぎていたように思う。

女性を前面に出す人と付き合ってもみたが、彼女たちは女性らしさを持つ反面、俺には男性らしさを要求する事が多かった。

男性だから紳士的な振る舞い、とか、男性だから奢るのは当たり前、男性だから車も持っていてほしい、男性だから私よりも稼いでいてほしい…

ハードル、高すぎだろ。

女性でも男性でも、できる人が出来ることをやりゃあいい。

女性だから、というタイプの女性とはいつしか距離を置くようになった。

だから真野さんのこの飲み方、最高。

この間のことを覚えているかと聞いてみると、

「あの、すいません、この間は本当に覚えていなくて…あんな飲み方、子供みたいでお恥ずかしいです。何か失礼な事言いませんでしたか?」

この答え。 

やっぱりかぁ。 

でもいい。たまに記憶を無くすくらい飲んだって。そんな日もある。

あの日、真野さんは陽気に楽しくジョークを飛ばしていた。
 
あの時間も覚えていないのか…

思い出さないかな…俺との時間…

とにかく、俺のことをちゃんと知って欲しくて、自己紹介をした。

年齢が上がるにつれて、最近は素直に真正面から向き合うことが怖くなっていた。 

でも今回は決めたんだ。

子供の頃のように、まっすぐ思いを伝えていこうと。 

今まで長い間、ひとりの生活を続けてきた。 

ひとりでも生きていける。

でも真野さんと一緒の毎日はどんな風になるのか、試してみたい。

一緒にいたい。

今回だけは、意地をはったりしたくない。

彼女を、逃したくない。
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