熟恋ージュクコイー
お互い1人だったが、あいさつだけで終わらせようと思っていたら

「ここ、一緒にどう?」

と弥生に言われた。

店内を見渡すと混んでいて、1人で2人席を確保するのも難しい。

『じゃあ、お邪魔します』

そう言って、弥生の向かいの席に座った。

「元気だった?」

『あぁ、まぁ。弥生は?』

「この通り。でも今、ちょっと仕事休んでるのよ。仕事しかない私が仕事休んだら、何にもなくなって、暇人よ、暇人。」

弥生が仕事を休んでいるなんて、信じられない。

仕事しない弥生が想像できない。


『え、なんで仕事休んでるの?』

「あ〜よくある話よ。仕事に夢中になってる間に、体はすっかり衰えててね。子宮とらなちゃいけなくなったの。」

『子宮をとる??』

「子宮筋腫。全部取った方がいいよってお医者さんに言われたのよ。完全に子供は産めなくなっちゃうわ。昔は産みたいなんて思わなかったけど、今さら産んでおけば良かったなぁと思う。」

『そうか…。ご家族には話したの?』

「まぁ、家族と言っても父と姉だけだから。姉に話して、少し手伝ってもらう事にした。」

『お姉さん元気?』

「うん、子育ても終わったから、元気に好きなことしてる」

『弥生はパートナーはいないの?彼氏とか旦那さんとか…』

「実は年下の彼氏と長いこと付き合ってだけど、去年別れたのよ。子供がほしいって言われてね。その頃から筋腫があることもわかってたし、産むなら若い方がいいから、他の人を探した方がいいよ、って」

『そうか…』

ここ最近、浮かれっぱなしだった俺には衝撃が大きかった。

「ごめんね、暗い話ばっかりしたわね。でも手術して、また仕事に復帰する予定よ。こうなったら死ぬまで働こうと思ってるわ。そっちは?彼女できた?」

『いや、いない。』

「あらまぁ、残念!」

『こんならおじさんを相手にしてくれる人はなかなかいないんだよな。』

「ふふふ。こんなおばさんもよ。」

ちょうど運ばれてきたビーフシチューを食べながら、世間話をして、別れた。





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