次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい

向かう先に彼がいると思うだけで心強くて、口元が綻んでしまうくらい心が喜びで満ち溢れ、自然と歩く速度が速くなっていく。

使用人たちと廊下ですれ違うたび皆に注目されてしまうため、リリアは足元を飾る紫色の花へと時折視線を落としつつ、グラシナと共に先へ先と急いだ。


「グラシナ、何をそんなに急いでいるの?」


突然、背後で男性の穏やかな声が響き、グラシナの足が止まる。


「セルジェル兄様」


もちろんリリアも歩みを止め、声の主を振り返り見た。

そこには、茶色の髪に同じく茶色の瞳を持ち、笑い顔は幼さも感じさせ、身体の細さから相手に中性的な印象を与えてしまうような小柄の男性が立っていた。

一瞬間を置いてから、グラシナが彼を兄と呼んだのをリリアは思い出す。

着慣れぬドレスゆえにぎこちなさを感じる動きでお辞儀をすると、セルジェルはキョトンとした顔でリリアを見つめ返した。

彼も王子で間違いない。

もちろん庶民とは比べ物にならないくらいに華があるのだが、しかし見た人の心を掴んで離さない容姿、所作、発する声の力強さなど、オルキスと比べるとどうしても頼りなく感じてしまう。


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