次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
セルジェルの母、つまりアシュヴィ王の妃なのだからそれも当然なのかもしれないと冷静に思う傍ら、リリアの中に恐れの気持ちが膨らみ、自然と顔が強張っていく。
「運命の乙女? 笑わせないでちょうだい!」
ぴしゃりと言われ、リリアはびくりと身を竦めた。
「あんなふざけた予言で勘違いして、我が物顔で城の中を歩きまわらないで欲しい……」
セルジェルの母がうんざりとリリアを見たその瞬間、ふつりと言葉が途切れ、場が嫌な静けさに包まれた。
自分を見つめる驚きに満ちた表情に、リリアはまただと息をのむ。
セルジェルの母も、アシュヴィ王や街で見た老婆と同じ顔をしている。
彼女もまた心の中で「ソラナ」と母の名を呟いているのではないかと確信に近い思いをリリアが抱いた時、セルジェルの母がリリアから目を逸らした。
「あなた、どこの出身?」
「……テガナ村です」
正直に答えると、セルジェルの母は短く息を吐き、気だるげに首を横にふる。
「テガナ村? そんな村、聞いたことが無いわね。いったいどこにあるのよ」
侮辱の含まれた言葉の響きに、リリアは顔を俯けたままわずかに唇を噛み、込み上げてくる不愉快さを耐えた。