次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
「まさかテガナ村をご存じないとは。霊峰として名高いカサータ山の麓にある村です」
力強く響く言葉と共に、リリアの視界に影が差し込む。
「一度足を運ばれてみたらいかがですか? テガナ村で英気を養い山へと登れば、きっと恩恵にあずかれることでしょう」
目の前にオルキスがいる。彼が来てくれたことにリリアは心の底からホッとし、目に涙を浮かべた。
「……オ、オルキス兄様」
グラシナが話しかけると、オルキスはちらりと不機嫌な眼差しを向ける。
「セドマからリリアがグラシナに連れて行かれたと聞いて、慌てて迎えに来た。勝手に連れまわさないでくれ」
「ごめんなさい」
厳しい顔をしていたオルキスだったが、大げさにも思えるほどしゅんと肩を落としたグラシナを見て、堪えきれずに笑みをこぼす。
するとグラシナも、先ほどまでのしおらしさなどあっという間に脱ぎ捨てて、オルキスへと得意げに笑いかけた。
「でもお兄様、ご覧になって! 可愛らしさに磨きがかかりましてよ!」
次の瞬間、オルキスと目が合い、リリアは瞳を揺らす。
着飾った自分を見てオルキスはどう思うだろうかと、どんどん不安になっていく。