次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
ふたりは身動きをせずじっと見つめ合っていたが、たまらないと言った様子でセドマが先にリリアから顔をそらした。
「初めてお目にかかった時、王様が私を通してお母さんの姿を見ていたような気がしたの。王様だけじゃないわ。町で見かけたお婆さんだって、私を見てソラナ様って……」
「リリア!」
鋭く名を呼ばれ、リリアはびくりと身体を竦めた。
やや間を置いたあとセドマがゆっくりと顔を上げる。
「モルセンヌにいる間、母さんのことは忘れるんだ。決してその名を口にしてはいけない」
怒りからか、それとも切なさからなのか、厳しく告げたセドマの声は微かに震えていた。
どうしてと頭の中は疑問でいっぱいになっていくのに、自分に向けられた皆の驚愕の表情が次々と頭の中に浮かんできて、問いかける勇気をリリアから奪い去っていく。
「あらあら。こんなところで何を騒いでいらっしゃるの? 見苦しいわよ」
場に漂う重苦しい空気を面白がっているかのような声が突然響き渡り、リリアは思わず息をのむ。
玄関のある方向からこちらへと、従者を何人も従え近づいてくる王妃の姿を見て取り、すぐにセドマは頭を下げた。