次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
男が短剣を振り上げたあの一瞬の光景が脳裏に蘇り身を震わせるが、オルキスの持つ剣先が放った鈍い輝きを視界の隅に捉えて、リリアは咄嗟に大きく手を伸ばした。
「オルキス様、いけません」
声はか細く震えているのに、その声から強い意志が伝わり、オルキスの心をしっかりと捕まえる。
オルキスは気持ちに応じてゆっくりと剣を鞘に戻し、リリアの身体をそっと抱き締めた。
そしてアレフはユリエルの腕をしっかりと掴み、強引に立ちあがらせる。
アレフに連行されていくユリエルから恨みのこもった眼差しを向けられ、リリアはオルキスの腕の中でびくりと体を強張らせたのち、やや間を置いてから、静かに話しかけた。
「追い出してしまって、本当に良かったのですか?」
「なんだ。夫人がたくさんいた方が良いのか?」
「そうではなくて! ……むしろ私は、いない方がオルキスを独り占めできるから嬉しい、ですけど」
勢いよくオルキスを見上げた後、恥ずかしそうに視線を落としたリリアを、オルキスはさらにきつく抱き締めた。
「だったら問題はない。これでいい」
「でも……ボンダナ様がはっきりと言ってくれても、いまだに不安になるんです。オルキス様の運命の相手が私なんかで良いのかと」