次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
そのまま部屋から出ようとした時、ちょうど廊下側から扉が開かれて、リリアの世話係の侍女が執務室へと入ってきた。
「リリア様、どこに行かれるのですか?」
そして廊下に出て行こうとするリリアを目で追いながら、ぽつりと疑問を囁きかける。
「庭にいるボンダナ様とちょっとだけお話をしてくるわ。すぐに戻るから。オルキス様にもそう伝えておいて」
「え?……は、はぁ……」
「お願いね」
侍女はリリアへ手をのばしたが、細い腕を捉えることは出来ず、ゆっくりとその手を引き戻す。
そしてあっという間に遠ざかっていく後ろ姿を見つめながら、リリアと一緒にいた侍女に話しかけた。
「こんな時にいったい何の話を?」
「……さぁ。わたしにはわかりません」
女の声を聞き、侍女ははたと動きを止める。
そして目も合わせることなく部屋から出て行こうとする女の顔をじっと見つめたのち、不思議に思いながら首をかしげたのだった。
+ + +
ボンダナがまだベンチに座っていることを願いながら、リリアは大急ぎで進んでいく。
ベンチが見えるところまで近づくと、幸運にもそこにまだ、蹲るようにして黒い人影が座っていた。