次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
「眠っているのかしら」
影に動きが見えないことにそんな冗談を呟きながらも、リリアははやる気持ちを抑えきれないまま、進む速度を上げていく。
「お祖母ちゃん」
小声で呼びかけると、心の中にじわりと温かいものが広がっていった。
しかし実際、そう呼びかけるとなると気恥ずかしさが勝り、いつも通り「ボンダナ様」と大きく声をかけようとした瞬間、影がむくりと動いた。
驚き、ほんの一瞬足を止めてしまったリリアになどお構いなしに、人影はするすると庭園の奥へと入っていく。
「待ってください! ボンダナ様!」
呼びかけて、リリアは必死に追いかける。
庭園の奥へ足を踏み入れると、そこは入り組んだ迷路のような場所へと変化する。
ここから先は足を踏み入れたことがなく、しかも辺りはすっかり暗くなっているため、迷子になりそうだという不安がリリアの胸を締め付ける。
不気味にも感じ、気持ちが折れそうになったその時、リリアの右手側から奥へと通じている通路で、ボンダナらしき影がちらりと動いた。
「……ボンダナ様」
恐々と歩を進め、その後ろ姿に声を掛けると、やっと足が止まる。