次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
子供の頃は遊び場にしていたオルキスも、大切に育てられていた青い液体を花弁から滴り落とす真っ赤な花を踏んでしまい、ボンダナのがっくりと落胆した様子を見て以来、立ち入らないようになった。
だから無意識に散歩コースから外してしまったのだが、何も知らないリリアがそこがどういう場所かも分らぬままに、ボンダナを追いかけ入っていったとしてもなにもおかしくない。
「リリア! どこにいる!」
しかしどれだけ走り回っても、その姿は見つからなかった。いくら声を張り上げ呼びかけてみても、愛らしい声は返って来ない。
オルキスは嫌な予感に駆られながら庭園を飛び出し、周囲に視線を走らせ、何度もリリアを呼び続ける。
回廊を進んでいたオルキスの足が、不意に止まった。礼拝堂の扉が開いていることに気が付いたからだ。
すぐにリリアが礼拝堂のことを気にかけていたことを思い出すと、自然と足がそちらに向かい出す。
オルキスは希望を持って礼拝堂の中を覗き込み、人の気配がないことにほんの少し肩を落とした。
内部へと足を踏み入れ、高窓から差し込む月明かりの下をオルキスは歩いていく。
かたりと、どこか音がした。