次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい

響いた音に俊敏に反応し、即座にオルキスは進む方向を変更する。

祭壇の後ろに下がっている布を手で退けると、その向こうには人がひとり通れるほどの通路があり、突き当りに地下へ繋がる階段があった。


「……地下室があったのか」


それは初めて知った場所だった。

階段を下りると、たくさんの蝋燭の明かりに満ちた空間が、オルキスの目の前に現れる。

そこは誰かが生活している部屋にも、何かを研究している一室のようにも見えた。

テーブルの上には水分を失いかけている果物が、ベッドの上には薄汚れたブランケットがまるで誰かが今そこから抜け出たように無造作に置かれている。

そして壁際には机があり、使用済みの試験管が五本ほど放置されているその傍らの台の上に、切り刻まれた一輪の花が横たわっている。

オルキスが問題だと感じたのは、まさにその花だった。

太い茎は緩やかに波打っていて、その先にある大きな花弁の色は真っ黒だった。

不可思議に思える花は、たいていボンダナによるものという場合が多い。

ボンダナが探していた花が、今目の前にある黒い花だったとしたら。その仮定が、嫌な予感を膨らませていく。


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