次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
森に入る手前で、先を行く白馬に跨る騎手が軽く手綱を引き速度を緩めれば、後に続く黒馬もそれに従い速度を落としていく。
黒馬に跨る若者が頭部を隠していたフードを外し、うんざりした顔で周囲を見回した。
年の頃は二十五くらいだろうか。短髪の黒髪に活発な印象を与える小麦色の肌を持つ青年は、ぶるりと身を振るわせながら、前を行く白馬に跨る人物へと声をかけた。
「いつ来ても、ここは薄気味悪いですね」
それを聞き、前を行く若者が口元に薄く笑みを浮かべた。
「ヤツに住み付かれているんだ。そりゃ薄気味悪くもなるだろう」
当然だと言わんばかりに返され、黒馬に乗る青年はぷっと吹き出した。
視界に今にも崩れ落ちそうな掘っ立て小屋を捉えれば、彼は黒馬の脇腹を蹴り、白馬を追い越していく。
白馬の到着を待たずに青年は馬から降りると、一つ息を吐き出してから小屋の扉へと歩み寄り、微かに緊張した面持ちで戸を軽く二度叩いた。
「ボンダナ導師!」
呼びかけるも屋内からは物音一つ聞き取ることが出来ず、青年はもう一度、先ほどよりも強く戸を叩こうとした。