次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
しかし拳が音を奏でるよりも先に戸が大きく開かれ、一人の老婆が顔を覗かせる。
「何度も叩かんでいい。聞こえとるわ!」
背中はひどく曲がり、顔にも深いしわが刻み込まれているが、威勢よく吠えた声はとても若々しい。
着古した黒色の外套を纏ったこの老婆こそ、魔女ボンダナである。
ボンダナは戸の前に立っている自分の倍近くもある青年をじろりと見上げてから、彼の背後へと視線を伸ばす。
白馬から降りたもう一人の青年が、静かにこちらへと近づいてくるのを見て、嬉しそうににやりと笑った。
「お入り」
歩み寄ってくる青年にそう声をかけ、ボンダナは室内の暗がりの中へと消えていく。
歓迎の言葉をかけられた青年は、中に入らなくちゃいけないのかと口元を引きつらせた短髪の青年に目をくれることもなく、一気に家の中へ足を踏み入れていく。
「民の関心を独り占めしておる第一王子がこの老いぼれに、しかもこのような時分に何用か?」
ボンダナは簡素な暖炉の前にある肘掛椅子に腰をかけながらわざとらしく問いかけて、戸口からそれほど離れることなく足を止めた若者へとじっと視線を注ぐ。
「関心? そうなるように仕向けたのはボンダナ、お前だろう」