次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
筋肉質な胸元や伝わる体温に、緊張感で一気に身体が強張っていく。
「馬は苦手か?」
そんな変化を男も自分の腕で感じ取ったのだろう、手綱を操り馬の速度を少しだけ落とした。
「……苦手ではないけど……馬に乗るのが久しぶりで、感覚を忘れていて」
理由はそれだけではないが、久しぶりというのも本当のことだった。
子供の頃はよくセドマに乗せてもらっていたのだが、大人になりいつの間にかそれもなくなってしまったのだ。
「少し我慢しろ。雨に濡れて風邪を引きたくはないだろ?」
リリアは前を向いたまま、耳元で囁きかけてくる男の言葉に対しこくりと首を縦に振る。
次第に村の中心地へと近付いてきたところで、リリアは前方を指さしてみせた。
「村長様はあの大きな窓があるお屋敷の……辺りにいるはずよ」
話はもう終わっているだろうかと、セドマとアレグロの顔を頭に思い浮かべながら言葉を並べると、「あれか」と男が呟く声を耳にした。
案内が終われば私の役目も終わる。
そんな考えが心を過ると妙に寂しくなってしまい、リリアは肩越しに男を見て、躊躇いながら問いかけた。