次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
最後にオルキスは薄く笑みを浮かべてみせた。完璧な微笑ゆえに、アレフには悪魔の微笑みのようにも思え、背筋を震わせる。
「行くぞ」
「はっ、はい!」
慌てて自分の後ろについたアレフと共に、屋敷の玄関手前で待っているリリアに向かって、先ほどよりも少し強くなり始めている雨の中を力強い足取りでオルキスは進んでいく。
二人が追い付く少し前に、リリアは先に玄関前を離れ庭の隅へと進んでいくが、自分の家に向かう前に馬小屋へと立ち寄り、ふたりを中に誘導する。
馬小屋の中は、五頭ぶんほどの仕切りが施されているが、入口から一番奥の区画に黒色の馬、手前に茶色の馬と、その二頭がいるだけだった。
黒毛の馬を見てリリアはホッと息を吐く。あれはセドマの馬で、そこにいると言うことは、まだ旅立っていないということになる。
それぞれの馬を空いている場所に留めたのち、三人は馬小屋を出て、すぐそばにある小屋の前で足を止めた。
「私が家を飛び出した時、アレグロ村長は父と一緒だったの……ふたりともまだ家の中に居れば良いのだけれど」
リリアは扉へと伸ばした手をいったん止めて、このまま中に入るかどうかを確認するようにオルキスへと視線を向ける。