次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
オルキスから頷きが返ってきたことで、リリアはぐっと扉を押し開けた。
「まったくおぬしは! 娘が見初められるかもしれんというのに、頑固者め!」
室内に入ろうとしたリリアの足が止まる。
聞こえてきたアレグロ村長の一喝で、ふたりの話はいまだ平行線のままだということ知ったからだ。
気持ち的にはそのまま後退し、扉を閉めてどこかに行きたいところだが、父の客人が後ろに控えているため、そうもいかない。
深呼吸し、リリアは一歩を踏み出した。
ふたりはテーブルの傍らで、向かい合わせになる形で椅子に腰かけていた。
唾を飛ばす勢いで言葉を並べるアレグロと、言い返す素振りすら見せずだんまりを決め込むセドマ。リリアにとっては見慣れた風景だ。
腕を組み顔を俯かせていたセドマは、家に戻ってきた気配を感じ取ると、ため息交じりで目線をリリアに送る。
「リリア。悪いがもう少しだけ……」
「お父さんに、お客さんよ」
室内に入ってきたのがリリアだけではないことに気づいた瞬間、セドマは機敏に椅子から立ち上がった。
表情に警戒心を滲ませ、リリアの背後に立つふたりの男性に視線を留めていたセドマだったが、徐々に目を大きくさせていく。