次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
「話の途中で悪い」
「とんでもない。あなた様がここにいるなら、私の話などもう終わったようなものかもしれませんな」
アレグロは声を上げ嬉しそうに笑うが、腰の痛みに響いたのか辛そうに顔を歪めた。
リリアが慌てる傍らで、静かにセドマが話し出す。
「今から王都に向かうつもりでした」
床の上に置かれた支度途中らしき小さな鞄を目で確認し、オルキスは短く息を吐く。
「確かにそのようだな。行き違いにならずに済んで良かった」
「……オルキス様」
セドマはオルキスの前へ進み出ると、深く頭を下げた。その姿にリリアは息をのむ。
「前線を退きかなりの月日が経ちました。もう私は昔のように動けません。あなた様の望みは荷が重すぎる。私は所詮、戦いが怖くなり逃げ出した情けない男にすぎないのですから」
苦し気なセドマの顔をじっと見つめていたオルキスだったが、表情を変えぬままセドマの荷物に歩み寄り、その傍らに置かれている剣を掴み取った。
少しばかり鞘から引き抜き、眩く光を反射した刃元へと視線を落とす。
誰もが口を開かず押し黙る中、オルキスは刃を鞘におさめながら元いた場所へ戻り、セドマの胸元へと鞘ごと剣を押し付けた。