次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
「俺はあなたの昔に惚れ込んで話を持ち掛けている訳ではない。この目で太刀筋を見たからこそ、こうして今のあなたに乞うている。一年ほど前に見たサムエトロ伯爵前でのあなたの活躍、恐ろしく見事なものだった。正直、血が騒いだ。一度手合わせをという私の願いもいつになったら聞き入れていただけるのか?」
オルキスの麗しくも力強い眼差しを受け、セドマは怯んだように瞳を逸らしながら、押し付けられた己の剣を右手で受け取る。
「アシュヴィの未来に安寧をもたらすために、若き騎士たちの力の底上げが必要不可欠。そのために力を貸して欲しい。ジャンベル騎士団にはあなたが必要だ」
オルキスの言葉で、やっとリリアも教えてもらえなかった父の事情を理解する。
「モルセンヌに戻って来てはもらえないだろうか」
真摯な思いを感じさせるオルキスの言葉がその場にいた皆の心に響き、自然とセドマへと視線が向けられていく。
雨粒が窓に叩きつけられる小さな音に交じって、セドマが声を震わせながら返事をした。
「申し訳ございません。期待には応えられそうもありません。あなた様は私を買いかぶりすぎている。実際、腕はなまりましたし、騎士団に戻ったところで、私は皆の足を引っ張る存在にしかなれず、若者に剣術を教えることも口下手ゆえうまくいかないでしょう」