次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
モルセンヌを訪れる目的は、花嫁への志願ではなく観光目的。
そんな気持ちでいるリリアは、どうしてもアレグロの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。
アレグロはもどかしそうにリリアを見つめ返していたけれど、屋敷の使用人たちと共に馬を引きつれこちらにやってくるセドマに気が付くと、寂しそうに息を吐く。
「ふたりとも、道中気をつけてな」
「ありがとうございます。行ってきます」
いつもよりも表情を和らげてアレグロに頭を下げたセドマに習って、リリアも慌てて頭を下げた。
セドマは手にしていた馬の手綱をリリアに渡してから、アレグロへと歩み寄り話し出す。
モルセンヌ。オルキス様。騎士団。
それらの単語を断片的に聞き取ると、これから本当にモルセンヌへと旅立つのだという実感が湧き、リリアの胸は期待でいっぱいになっていく。
リリアがセドマから預かったのは、オルキスの乗っていたあの白馬の手綱だった。
大人しく自分の主を待っている白馬をそっと撫でながら思い描いてしまうのは、やはりオルキスのこと。
これから彼と一緒にモルセンヌに行く。
王都に着いた後も、また自分と行動を共にしてくれるだろうか。
時計塔はもちろん、他の場所にも連れて行ってはくれないだろうか。