次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい
小さな岩に腰掛け居眠りをしている男性、川辺で談笑する男女、小川の水を飲んでいる馬に話しかけながら優しく撫でている女性。
リリアはその向こうに、オルキスとアレフの後ろ姿を見つける。
道中、リリアはオルキスとたくさん話をする気でいたのだが、何度もあった機会はごとごとくセドマによって邪魔されてしまい、彼とふたりの時間を持つことは叶わなかった。
セドマが出発前に発した言葉を思い出すたび、モルセンヌに着いたあと自分はオルキスに会わせてもらえないのではと、リリアは不安になってゆく。
もともとの予定通り、セドマは話をするためにオルキスに会いに行くだろう。
しかし、いくら一緒に行きたいと願ってもセドマは許可することなく、そのまま自分を置いて一人で行ってしまうような……そんな気がしてならないのだ。
オルキスと一緒にモルセンヌを歩きたい。話してくれた時計塔を一緒にのぼってみたい。
モルセンヌまであと少しの距離まで来た今、そんな気持ちばかりが大きくなっていく。
セドマに気付かれることなく、この休憩の合間にオルキスと約束を交わすことだけでも出来ないだろうか。
フードを目深にかぶったまま、横を歩くセドマへとリリアが視線を向けたその時、「セドマさんではありませんか!」と後ろから若い男の声が聞こえてきた。