彼氏売買所
「愛ちゃん、忘れ物?」


啓太郎はズンズン近づいて来てあたしの前で立ちどまるとそう聞いて来た。


啓太郎に『愛ちゃん』と呼ばれた瞬間、全身に虫唾が走った。


呼ばれただけで気持ちの悪さを感じるのは、この啓太郎だけだった。


あたしは無理やり笑顔を浮かべて「うん」と、小さく頷いた。


そのまま息を止めて啓太郎の隣を通り過ぎようとする。


そんなあたしは啓太郎が呼び止めた。


早く行ってしまいたいのに、あたしの足は反射的に止まってしまう。


啓太郎は今日の授業についての話をし始めた。


そんな話どうでもいい。


こんな至近距離で啓太郎の体臭を嗅いでしまうと、気絶してしまうかもしれない。


それでもあたしは息を止めたまま笑顔を浮かべていた。
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