彼氏売買所
☆☆☆

10時5分前になると、あたしは○×金融が入っているビルの前に立っていた。


灰色で縦長のビルは他にも会社が入っているが、人を寄せ付けない雰囲気を持っていた。


ビルの外壁は所々ひび割れ、一階に入っている会社の入口のプランターには枯れた花が放置されている。


ビルの右側には細くて急な階段があり、そこをあがって4階に行けば目的地に到着できる。


それは理解できているのに、足が進まなかった。


そこだけ隔離空間のような、不思議な感覚。


行きかう人々のこのビルに入って行く人はいない。


あたしはゴクリと唾を飲みこんでビルを見上げた。


このまま突っ立っているワケにはいかない。


ただ○×金融のドアを叩き、持っているお金を渡してくるだけ。


ただそれだけだ。


あたしはそう思い、ビルの階段を上がりはじめたのだった。
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