あしたの星を待っている


「男性恐怖症、だいぶマシになったのか」

「え?」

「前はもっと嫌がってただろ?」


そうだけど、確かにそうだけども。

男性恐怖症がマシになったわけじゃなくて、相手が瑠偉くんだからだよ、という言葉は口から出せず、戻ってきたスマホを見つめる。

【矢吹 瑠偉】

このIDを取得するのに、2年も掛かった。

その間に、瑠偉くんは私を気遣って近づかないようにしてくれていたんだね。

男である自分が、恐怖を与えないために。

それなのに、私は何をやってんだろう……。


「先輩のおかげか」


ぽつりと、呟やかれた言葉に思わず反応した。


「違うよ!」

「花菜?」


不思議そうな顔。

ほんと、何やってんだろう、私。


「あ、あ、うん。そうかな」

「上手くいってんだな」


こんな時、後藤先生がこっそり教えてくれた言葉が頭の中で虚しく蘇る。


『この前、矢吹くんも同じ相談をしてきたよ。大切な人を誤解していたと』

『――え、』

『自分のせいで辛い思いをさせてしまったから、幸せになって欲しいとも言ってたな。その人とは幼馴染なんだって』


距離ができていた間も、瑠偉くんは私を思い気にかけてくれていた。

それなのに、私は彼氏を作って、自分だけ楽になろうとしていた。

そんな私が、今さらこんな感情を持ってはダメだよね。




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