あしたの星を待っている
山岡さんは時折メモを取りながら、じっと私の目を見つめている。
その瞳は眼鏡越しに見ても鋭く、吸い込まれてしまいそうだ。
気付くと手足が震えていて、隣にいる瑠偉くんが心配そうにおしぼりを渡してくれた。
「他に覚えているものは? 例えば男たちがお互いをどう呼び合っていたとか、持っていたスマホの色とか、なんでもいい」
「なんでもって言われても……あの、私の事件の時って犯人は捕まらなかったんですか?」
「え、それも知らされてないのか」
驚いたように体を後ろにのけ反らせた山岡さんは、「あのお母さんならあり得るか」と呟いて、珈琲を一口飲んだ。
「主犯の男は捕まったよ」
「え、じゃぁ……」
「でも、俺は誤認逮捕だと思っている。主犯は別にいるんだ」
今度は私が驚く番だった。
誤認逮捕って、主犯は別にいるって、そんな……。
「当時、逮捕された男は16歳。夕里さんを襲った時、自らも怪我をして入院。そのあと、示談が成立しているが通っていた高校は中退。現在は引きこもりになっている」
「あの怪我ってどんな……?」
もしかして、私が危害を加えたのだろうか。
自己防衛とはいえ、入院するような怪我を負わせたなんて――。
「違う違う。あの時、逃げ出した夕里さんを追って一緒に車に轢かれたんだ。だから、事故にあったという話は間違いでもないんだよ」