あしたの星を待っている
瑠偉くんのハンカチは、バラの匂いがする。
昔、一緒にドラックストアに洗濯洗剤を買いに行ったとき、彼が好きだといっていた香り。いつの間にか私も好きになっていた香りだ。
「無理してないよ、瑠偉くんは心配性だなぁ」
「おかげさまで。子供の頃から手の掛かる幼馴染がいたからな」
「それって、わたしのこと? 酷い!」
バシッと、瑠偉くんの腰辺りを手で叩く。
すると、悪戯っぽい笑顔が零れた。瑠偉くんのこんな顔、久々に見た。それはまるで子供の頃に戻ったような懐かしさで私も笑っていると、
「俺は、山岡さんとのことも無理しないでほしいと思ってる」
瑠偉くんは真顔に戻り、改まった口調でそう言った。
山岡さんとのこととは、2年前の事件について取材を受けている件だろう。
「花菜が過去の事件と向き合いたいと思うのは、すごい進化だと思うし応援したいけど、また傷つくことがあったら……」
「心配してくれてありがとう、大丈夫だよ」
「でも、」
「瑠偉くん、私ね。少しずつだけど、事件前後のことを思い出して、そりゃショックなこともあったけど、知れて良かったと思っているの。ずっとモヤモヤしてたものが晴れていくような感じっていうのかな」
得体のしれないものに怯えるよりは、知ってて傷つく方がずっといい。
そう思えるようになったんだよ。