あしたの星を待っている
「瀬戸高のマネージャーと付き合ってたのも本当?」
「あぁ、あんた聞いてたんだよな。付き合ってたというか、あれは俺の兄貴の彼女だったんだよ。それを無理やり犯してビデオ撮って、自分のものにしたんだ」
なに、なに言ってんの? 吐きけがする。
中津くんの口調はあまりに淡々としているため、話の内容を理解するまでに時間がかかったけど、分かった途端、胃の中のものが逆流するような気持ち悪さを感じた。
「葉山さん、あんたのことは特別って感じだったけど、この先いつ豹変するか分かんねぇーよ。酷い目に合う前に別れた方がいいんじゃねぇーの? どんなに善人ぶったって根は腐りきってるクソだからな」
「ビデオっていうのは、」
「あ?」
「その、お兄さんの彼女以外にもあるのかな」
呟いた瞬間、隣にいた黒沢さんはハッとしたように表情を変えた。
「そういや、前に自慢してたな。自宅のパソコンに歴代の彼女を含め、食った女の動画を保存してあるって。で、別れたいって女が言ってきた時、脅しに使うんだって」
ほんと鬼畜だなっ、て中津くんは笑う。
確かに先輩は動画を撮るのが好きで、私も何度か撮られた。
笑っている時、恥ずかしかった時、喧嘩して仲直りした時。恋人同士ならどのカップルにもありそうな場面を記録しているだけだと思っていたけど。
それが悪い方へエスカレートするのもあるってことか。
ふと、中津くんの足元を見ると青いミサンガがしてあるのが見えた。
「それ……」
「あぁ、これ? 昔、俺らの間で流行ってさ。葉山さんもしてるだろ? なかなか切れないからずっと付けてるけど、これが何か?」
「ううん」
瀬戸高からの帰り道、黒沢さんと会話はほどんどなかったけど、おそらく考えていることは同じだった。
湿気を多く含んだ雲が空に渦巻いている。
「ねぇ、もう1度聞くけど。葉山先輩のこと、好きなの?」
別れ際、問いかけられた質問には答えられなかった。