あしたの星を待っている
葉山先輩に告白されたとき、戸惑いはあったけど嬉しかった。
初めて「花菜」と呼ばれたとき、腕に触れたとき、抱きしめられたとき、臆病な私に先輩は優しく接してくれた。私のペースに合わせてくれた。
先輩といるとドキドキして、ふわふわ温かい気持ちになって、時々、ハラハラして、悲しくなることもあったけど、付き合うってこういうものなのかなって思っていた。
気持ちが触れ違うたび、先輩のことを知りたいと思った。
もっと知らなきゃいけないと思った。
だけど、結局。先輩のことは何も知らないままだった。
暑い夏が終わり、季節に秋に移り肌寒くなったある日のこと。
チャンスが訪れた。
「家に呼ばれた?」
黒沢さんが目を丸くする。
「うん、推薦入試が終わってひと段落ついたから遊びに来ないかって」
先輩との付き合いは、まだ続いていた。
ただ彼は受験で忙しかったため時々メールをするくらいの関係で、このまま距離を置くかそれとも別れを切り出すかと考えていたところ。
これが先輩のことを知る最後のチャンスのように思えた。
「家はまずいんじゃない?」
「でも、中津くんが言ってた動画を見つけるには良い機会だと思う」
唯一の手掛かりだったミサンガは、中津くんを含め他にも付けている人がいるという時点で重要性をなくしていた。
もはや、先輩に足にそれがあろうがなかろうがさほど意味はない。
それなら、もっとも重要な手掛かりを押さえなくちゃ――。